中小企業経営力強化資金とは|改正内容・メリット・デメリットを解説
監修者:渡部 豪(公認会計士)
KPMGあずさ監査法人で勤めたのち、ベンチャー企業のCFO(最高財務責任者)へ就任。
創業期の会社のデットファイナンス(融資)を複数支援した実績を持つ。
【主な支援実績】
融資額:最大5億円(コンサル会社)
創業融資額:最大6500万円(EC会社)
「2,000万円までの無担保無保証」「金利が1%以上低い」「自己資金不要」など、神制度としての中小企業経営力強化資金を耳にしたことはありませんか?
日本政策金融公庫のホームページを見ても情報が少ないため、自社で利用できる融資制度なのか判断しづらいでしょう。
中小企業経営力強化資金は、創業する方だけでなく、創業から数年経っている方でも利用できる融資制度です。
さらに、融資限度額が大きくて金利も低いため、初期投資に多額の費用がかかる方や少しでも有利に資金調達したい方におすすめです。
しかし、近年では制度内容が改正されています。
本記事では、中小企業経営力強化資金の改正内容、メリットやデメリットについて詳しく解説します。
加えて、利用までの流れや注意点も説明するので、中小企業経営力強化資金を利用したい方はぜひ参考にしてください。
中小企業経営力強化資金とは
中小企業経営力強化資金の内容 | |
---|---|
対象者 | 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方で、次の3つにあてはまる方 ・「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用しているまたは適用する予定 ・自ら事業計画書の策定をしている ・中小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている |
資金使途 | 運転資金、設備資金 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
返済期間 | 設備資金:20年以内 運転資金:7年以内 |
金利 | 特別利率Aを適用 1.7%~3.0% |
担保・保証人 | 要相談 |
中小企業経営力強化資金は、創業時でも有利な条件で融資してもらえる可能性がある日本政策金融公庫の制度です。
なお、中小企業経営力強化資金は事業者単独で利用できるものではありません。
認定経営革新等支援機関の指導・助言を受ける必要があります。
中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にあるとして、国の認定を受けた支援機関のこと。
税理士、税理士法人、公認会計士、中小企業診断士、商工会・商工会議所、金融機関などが認定を受ける。
情報元:認定支援機関(経済産業省)
また、中小企業経営力強化資金は、中小企業等経営強化法による金融支援のひとつです。
中小企業等経営強化法は、中小企業の成長を支援し、生産性向上を図ることを目的としたさまざまな支援を行うための法律として定義されています。
この中小企業等経営強化法に基づき、政府の経済支援策として、税制優遇や金融支援など幅広い中小企業支援が行われています。
「新創業融資制度」と並んで人気のあった中小企業経営力強化資金
無担保無保証枠や金利、自己資金の点で中小企業経営力強化資金は、新創業融資と並んで人気のある制度でした。
なぜなら2020年3月に改正されるまでは、2,000万円まで無担保無保証のうえ自己資金が不要で、優遇金利によって金利も抑えられたからです。
改正前の中小企業経営力強化資金と新創業融資の違いは、表のとおりです。
改正前の中小企業経営力強化資金と新創業融資 | ||
---|---|---|
中小企業経営力 強化資金 | 新創業融資 | |
金利 | 優遇金利 (特別利率A) | 2.4%~3.6% (基準金利) |
担保・保証人 | 2,000万円 まで不要 | 不要 |
自己資金 | 不要 | 創業にかかる資金の 1/10以上必要 |
融資限度 | 7,200万円 (うち運転資金4,800万円) | 3,000万円 (うち運転資金1,500万円) |
実質上限 | なし | 1,000万円 (支店の決裁枠) |
また、改正前の中小企業経営力強化資金は新創業融資より高額な無担保無保証融資を受けられる可能性がありました。
新創業融資の実質の融資上限額は、支店の決済枠である1,000万円だからです。
このように改正前の中小企業経営力強化資金は、新創業融資よりもかなり条件が良かったので人気の融資制度でした。
「新創業融資制度」について詳しく知りたい方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。
中小企業経営力強化資金の改正内容
中小企業経営力強化資金は、2020年3月から主に担保・保証人が改正されました。
中小企業経営力強化資金の改正前・改正後比較 | ||
---|---|---|
改正前 | 改正後 | |
担保・保証人 | 2,000万円まで 無担保無保証 | 要相談 |
現行の制度で特に大きく変わったのは、2,000万円まで無担保無保証で融資を受けられなくなった点です。
新創業融資は実質1,000万円(支店決裁枠内)が無担保無保証でしたが、中小企業経営力強化資金は2,000万円まで無担保無保証と、大きな活用メリットがありました。
無担保無保証であれば、経営者はリスクなく融資を受けられるため精神的な負担がなく、担保や保証人を設定する手間も省け、事業に注力できたのです。
改正後の中小企業経営力強化資金は魅力を失ったという声もあります。
とはいえ、現行の制度でも融資限度額の大きさや金利の低さ、自己資金要件などには魅力があり、中小企業経営力強化資金を利用するメリットは大いにあります。
中小企業経営力強化資金のメリット
改正後の中小企業経営力強化資金を利用するメリットは、以下の3点です。
【中小企業経営力強化資金のメリット】
・融資限度額が大きい
・金利が低い
・自己資金要件がない
有利な融資条件であるのが大きな魅力なので、それぞれ解説します。
融資限度額が大きい
中小企業経営力強化資金の最大のメリットは、融資限度額が7,200万円と非常に大きい点です。
融資限度額が大きいと、初期投資に費用がかかる事業に挑戦できるようになります。
金利が低い
中小企業経営力強化資金は、特別利率が適用されるため金利が低い点も魅力です。
実際に一般融資や新創業融資制度の利率と比較すると、以下のとおりとなります。
中小企業経営力強化資金で適用されるのは、特別利率Aです。
各融資制度の金利 | ||
---|---|---|
金利区分 | 金利 | |
一般融資 | 基準利率 | 2.1%~3.3% |
新創業融資 | 基準利率 | 2.4%~3.6% |
中小企業経営力強化資金 | 特別利率A | 1.7%~2.9% |
金利差 | – | 0.4%~0.7% |
情報元:国民生活事業(主要利率一覧表)|日本政策金融公庫
中小企業経営力強化資金は、基準利率より低金利の特別利率Aが適用されるため、人気のある新創業融資制度よりも0.7%ほど低い金利で利用できます。
金利が0.7%違うと、500万円を7年で借りた場合、利息に約30万円の差が生じます。
融資金額が大きくなるにつれて利息負担の差が大きくなるので、低金利であることは大きなメリットです。
自己資金要件がない
中小企業経営力強化資金には、自己資金要件がないのもメリットです。
自己資金を準備する必要があると、すぐに融資を受けられず事業を開始するスピードが遅くなってしまう可能性があります。
自己資金が不要であれば、大きな先行投資が生じるビジネスなどに取り組みやすいです。
中小企業経営力強化資金のデメリット
中小企業経営力強化資金のデメリットは、主に以下の4つです。
【中小企業経営力強化資金のデメリット】
・中小会計を適用する必要がある
・事業計画書の策定
・認定支援機関の利用が必要
・報告義務がある
融資条件が有利な分、手間がかかる点が主なデメリットとなっています。
中小会計を適用する必要がある
中小企業経営力強化資金を利用するには、中小会計を適用する必要があるので、費用と時間がかかってしまいます。
中小会計は会計に関する専門的な知識を要するため、自社のみでの対応は難しいのが現状です。
もし税理士に依頼する金銭的な余裕がないと、中小会計を適用できず、中小企業経営力強化資金を利用できません。
本来、非上場企業である中小企業には、会計ルールに従った経理をする必要はありませんでした。
しかし、統一したルールがなく、経理処理や決算書を各企業が自由なやり方で作成していては、経営状態を正しく把握できません。
中小会計要領に則った決算書を作成すれば、一定のルールに基づいて作成されたものとして金融機関から信頼を得られます。
そのため、有利な条件で融資を受けられることを考えると、デメリットのみではありません。
事業計画書の策定
自身で事業計画の策定をする必要がある点も、中小企業経営力強化資金のデメリットといえます。
経営を始めたばかりの人には事業計画書の作成は難易度が高く、手間がかかる作業だからです。
事業計画書は、経営者が思い描くビジネスプランや事業の概要を他者に見てもらうための書類です。
さらに、経営者が事業計画書を定期的に確認し、事業が計画通り進んでいるかチェックする書類でもあります。
そのため、中小企業経営力強化資金の利用の可否に関わらず、事業計画書は作っておくとよいでしょう。
認定支援機関の利用が必要
中小企業経営力強化資金を利用するには、認定経営革新等支援機関の指導および助言が必要です。
支援機関を探す手間や、報酬などの費用がかかるため、デメリットの1つといえるでしょう。
認定経営革新等支援機関の対象は税理士や会計士だけでなく、弁護士や民間のコンサルティングも含まれます。
そのため、自社が支援してほしい部分をサポートしてくれる支援機関を選ぶことが必要です。
また、認定支援機関の利用には通常、月額報酬や着手金などの費用が発生します。
自社に合った支援機関をすぐに見つける方法を知りたい方は、「STEP1:認定経営革新等支援機関に相談する」を確認してください。
融資後は進捗報告義務がある
中小企業経営力強化資金を利用すると、日本政策金融公庫へ年に1回以上、事業計画の進捗を報告する手間がかかります。
もし融資申し込み時に作成した事業計画書と実績に差があれば、担当者が納得する説明が必要です。
事業計画は、現実的な売上予想や行動目標に即して、保守的に作成しましょう。
事業計画の進捗を報告しないと、期日より前倒しで返済を求められる可能性があります。
中小企業経営力強化資金の利用方法
中小企業経営力強化資金を利用する際は、以下のような流れになります。
それぞれのSTEPに分けて説明します。
まずは認定経営革新等支援機関に相談します。
認定経営革新等支援機関は、中小企業庁の「認定経営革新等支援機関検索システム」で探すことが可能です。
認定経営革新等支援機関にはそれぞれ得意分野があり、融資支援が得意なところもあれば、そうでないところもあります。
そのため、サポートしてもらいたい点をはっきりしておかないと、自社に合った認定経営革新等支援機関を見つけられません。
また、相談にかかる費用は各機関によって異なるため、直接問い合わせてください。
例えば、創業時の融資支援をしてもらえる機関を見つけたい場合は、以下のようにキーワードに「融資支援」を入力し、相談可能内容の「創業等支援」にチェックを入れて検索します。
その後、「この条件で検索する」をクリックすると、候補の機関が表示されます。
実際に約400件の認定経営革新等支援機関が候補として出てきました。※2023年11月時点
さらに候補を絞るためには、自社の業種や希望する認定経営革新等支援機関の種別を入力しましょう。
認定支援機関について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
中小企業経営力強化資金を受けるにあたって、事業計画書は所定の様式が存在します。
【事業計画書(所定様式)】
情報元:事業計画書(中小企業経営力強化関連)記入例|日本政策金融公庫
記入例の「2.業績推移と今後の計画」から分かるように、3年分の計画が必要になります。
また、収支計画と資金計画の整合性を意識した具体的な行動計画も必要です。
もし審査担当者に納得してもらえる事業計画書の作り方を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
事業計画書を作成したら、その他の以下の必要書類を準備しましょう。
法人と個人で必要書類が少し異なるため注意が必要です。
法人の必要書類 | |
---|---|
書類名 | 内容 |
借入申込書 | 日本政策金融公庫指定の様式 (記入例) |
確定申告書・決算書 | 直近2期分 (勘定科目明細書を含む) |
見積書 | 設備資金の場合 |
履歴事項全部証明書※ | 登記簿謄本でも可 |
創業計画書または 企業概要書※ | 創業計画書: 事業を開始される方、 創業間もない方 企業概要書:それ以外の方 |
代表者の 運転免許証※ | パスポートでも可 |
許認可証※ | 許可・届出等が 必要な事業の場合 |
情報元:ご提出書類【インターネット申込用】(日本政策金融公庫)
創業計画書と企業概要書の記入例はこちらから確認できます。
なお、上記以外にも書類を求められる場合があります。
あらかじめ以下の記事で必要書類を確認しておくと、スムーズに手続きが進むでしょう。
必要書類がそろったら、日本政策金融公庫へ申し込みましょう。
24時間365日申し込みできる「インターネット申し込み」が便利です。
申し込み方法の解説動画もあるので、確認しながら手続きを進められます。
インターネット申し込みが難しい場合は、事業資金相談ダイヤルに問い合わせましょう。
申し込みが完了したら、入力したメールアドレス宛てに、「事業資金のお申込データを受付しました」という件名のメールが届きます。
申し込み後、1週間程度で担当者から連絡があり、日本政策金融公庫の支店で面談をします。
面談時間は約1時間で、事業計画書を基にいくつか質問されます。
質問にうまく答えられるか不安な場合は、認定経営革新等支援機関の担当者に同席してもらえないか相談してみましょう。
なお、日本政策金融公庫の面談で聞かれることはパターンがあり、事前に質問内容をある程度把握できます。
面談で失敗して審査に落ちたくない方は、面談で成功するポイントや実際にあった質問を以下の記事で確認し、面談に臨みましょう。
面談後に審査が行われ、約1〜2週間後に融資の可否が分かります。
審査の際、現地調査が行われる場合もあるため、申込書などの住所は正確に記入しましょう。
また、日本政策金融公庫の審査は、一度落ちると半年間は再申し込みできず、次回審査はさらに厳しくなる傾向にあるといわれています。
そのため、できるだけ1回で審査に通ることが重要です。
日本政策金融公庫の審査にできるだけ落ちたくない方は、以下の記事で審査に落ちないためのポイントや対策を確認しましょう。
審査に通れば、契約書類が郵送されます。
契約書類が届いたら、内容をよく確認しましょう。
例えば、特別利率Aが適用されているか、融資額はいくらかなどをチェックし、申し込み内容と合っているか確認します。
契約後、おおむね5日後に融資金が送金されます。
中小企業経営力強化資金を利用したら、1年ごとに日本政策金融公庫への報告が必要です。
事業計画進捗報告書を用いて、報告します。
事業計画書の計画から実績が8割を下回ると、詳細の説明が必要になります。
8割を達成できなくてもすぐに返済を求められるわけではないですが、未達の原因と今後の見込みについて担当者が納得する説明をしなければいけません。
【事業計画進捗報告書】
融資に強い認定経営革新等支援機関をお探しなら
中小企業経営力強化資金は融資限度額が大きく、金利も低いためおすすめの制度です。
しかし、事業計画書の作成と認定経営革新等支援機関による助言を受ける必要がある点が、大きな手間となっています。
認定経営革新等支援機関には、さまざまな得意分野があります。
その中でも融資に特化して、日本政策金融公庫の中小企業経営力強化資金の支援実績をもつ認定経営革新等支援機関は多くありません。
もし中小企業経営力強化資金を少しでも確実に受けたければ、ぜひ日本創業融資センターへご相談ください。
日本創業融資センターは、中小企業経営力強化資金を含む日本政策金融公庫の融資支援実績が100件を超えています。
さらに、公認会計士やCFO経験者など財務のプロが真摯にサポートいたしますのでご安心ください。
具体的には融資に受かる事業計画書の作成や申請書類の準備、面談対策などさまざまな点をサポートし、成果につながるよう徹底的にコミットします。
加えて、完全成功報酬のため、融資が受けられるまで費用は一切かかりません。
無料相談を受け付けているため、融資に関する不安や疑問がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。