【未経験でもOK】公庫の創業融資の審査に通るポイント5選
監修者:渡部 豪(公認会計士)
KPMGあずさ監査法人で勤めたのち、ベンチャー企業のCFO(最高財務責任者)へ就任。
創業期の会社のデットファイナンス(融資)を複数支援した実績を持つ。
【主な支援実績】
融資額:最大5億円(コンサル会社)
創業融資額:最大6500万円(EC会社)
事業を始めるにあたって公庫の創業融資を検討しているけれども、審査に通るか不安に思っていないでしょうか。
結論からいうと、しっかりとポイントを押さえれば、未経験の事業でも融資を受けられる可能性があります。
本記事では、公庫の創業融資の審査基準や審査に通るためのポイントを解説します。
さらに、失敗事例を交えながら、審査時に公庫が注目する要素も詳しく説明しますので、ぜひ参考にしてください。
未経験でも低金利で借りやすい?創業融資とは
そもそも創業融資とは、新しく事業を始める起業家や新規事業を立ち上げる企業が資金を調達するために利用する融資制度です。
新たなビジネスを始める際は、初期投資や設備購入、経費の支払いなどさまざまな事業資金がかかるため資金調達は大切です。
創業時には、初期投資や設備購入、経費の支払いなど、さまざまな事業資金がかかります。
しかし、手元資金を持っていない場合や自己資金だけでは不足する場合もあるでしょう。
さらに、創業期は事業の実績がなく返済能力があるかどうか判断しにくいため、融資を受けにくいのが一般的です。
そこで活用できる調達方法が創業融資です。
とはいえ、審査を通過することは容易ではありません。
なぜなら事業計画やビジネスモデルの評価に基づいて融資の可否が慎重に判断されるからです。
入念な審査や手続きを経て、融資が承認されれば、ビジネスをスタートするために必要な初期資金を確保できます。
まずは、創業融資の制度について理解しましょう。
- 創業融資は「日本政策金融公庫」と「地方自治体の制度融資」の2種類
- 創業融資が一番借りやすい理由は起業家を積極的に支援しているため
創業融資は「日本政策金融公庫」と「地方自治体の制度融資」の2種類
創業融資には、公庫融資と地方自治体が独自に設けている制度融資の2種類があります。
公庫融資は、日本政策金融公庫からの融資です。
新たに事業を始める方もしくは事業開始後7年以内の方が対象で、事業用の運転資金や設備資金に対して融資してくれます。
1.4%~3.6%(2024年11月1日時点)の低金利で融資を受けられます。
一方、制度融資は、都道府県や市区町村などの地方自治体が信用保証協会や銀行・金融機関と協力して提供する融資です。
制度融資は、上限3,500万円(東京都の場合)と上限額が大きめなことが特徴です。
金利は、市区町村が負担するケースでは0.2%(東京都港区の場合)と低金利に設定されています。
創業期の中小企業の負担を軽減するために、利用者の保証料や金利の大半を負担する地方自治体が多いです。
なお、地域によって、制度融資の融資上限額や条件は異なります。
創業融資が一番借りやすい理由は起業家を積極的に支援しているため
創業融資は、起業時に比較的借りやすいとされています。
公庫は全額政府が出資している金融機関で、民間の銀行とは違い、起業家や中小企業の成長を支援することを目的としています。
また、地方自治体も地域の産業振興や雇用創出を目指しており、起業や新規事業を積極的に支援しています。
各地域の信用保証協会が融資の保証人となるため、民間の銀行にも安心感を与え、民間銀行が融資を行いやすくなっています。
どちらも地域の産業や雇用の振興を図ることを重視しているため、地域に貢献する事業に対して積極的に支援する傾向があります。
公庫の新創業融資制度は廃止され新規開業資金に統合された
創業融資といえば公庫の「新創業融資制度」が一番人気で、当センターの融資支援実績のうち創業融資を希望される方の90%以上が活用されていました。
しかし、新創業融資制度は2024年3月末に廃止され、「新規開業資金」という制度に統合されました。
統合の結果、融資条件は以前より拡充され、より使いやすいものとなっています。
新創業融資と新規開業資金の主な違いは以下の表のとおりです。
新創業融資と新規開業資金の主な違い | ||
---|---|---|
新創業融資 | 新規開業資金 | |
自己資金の要件 | 創業資金総額の1/10以上 | なし |
融資限度額 | 3,000万円 (うち運転資金1,500万円) | 7,200万円 (うち運転資金4,800万円) |
返済期間 | 設備資金:20年以内 運転資金:原則7年以内 | 設備資金:20年以内 運転資金:原則10年以内 |
据置期間 | 2年以内 | 5年以内 |
特に大きな変更点は自己資金要件と融資限度額です。
創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要だったのが、新規開業資金では不要となり、申込みの条件が緩和されたといえます。
また、融資限度額は2倍以上となり規模の大きな事業も始めやすくなりました。
公庫の創業融資の審査基準
公庫の創業融資の審査における基準は、利用する制度によって異なりますが、一般的に以下の3つのポイントが重要とされています。
【創業融資の審査基準】
- 事業計画の内容
- 自己資金の割合
- 経験や専門知識の有無
それぞれ詳しく解説します。
事業計画の内容
公庫の審査に通るための最も重要な要素は、事業計画の具体性と実現可能性です。
事業計画には、起業の動機や目的、ビジネスモデルや市場分析、利益の見通しなどを詳細に記載する必要があります。
事業計画が明確で、その実現に必要なステップが具体的に述べられていると、事業が成功する可能性が高いと判断され、審査にプラスの影響があります。
例えば、新製品を市場に導入する計画がある場合、市場調査の結果やターゲット顧客のニーズ、競合他社の動向などの具体的なデータを踏まえ、その市場で勝てる明確な根拠を事業計画に反映させましょう。
さらに、事業計画は審査担当者の視点を考慮した客観的な構成にすることも大切です。
審査担当者の視点を踏まえた創業計画書の作り方については、下記の記事を参考にしてください。
審査では、事業計画を通じて事業の成長性や収益性、リスク管理の能力などを判断します。
新しい事業が直面するであろう問題やリスクへの対策も記載して、リスク管理能力も持ち合わせていることをアピールしましょう。
自己資金の割合
融資金額も含めた創業資金に対して、自己資金がどの程度あるのかも重要な要素です。
一般的には、創業資金の1/3以上を自己資金として用意しておくことが望ましいとされています。
自己資金とは、経営者が事業に投資するために自ら集めた資金です。
なお、新創業融資制度では自己資金要件がありましたが、廃止と制度統合の結果、自己資金要件はなくなりました。
公庫の公式サイトにも「自己資金は重要な要素のひとつですが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要になります。」と記載されています。
とはいえ、自己資金の割合は、審査において起業家の取り組みの熱意や、事業の財政状態に関する信用力を示す指標として評価されます。
また、自己資金の金額や比率だけでなく、その使いみちも審査に影響します。
例えば、自己資金が生産設備の改良や人材の雇用、市場調査に活用されているかなど、具体的な資金計画がある場合は、発展性があると判断される可能性もあるでしょう。
融資審査を受ける前にできるだけ多く、少なくとも創業資金の3分の1以上の自己資金を用意してください。
経験や専門知識の有無
公庫の審査では、起業家の経験や専門知識の有無も重要です。
審査担当者は、起業家が事業を成功させるために必要なスキルや経験を持っているかどうかを判断します。
特定の業界での経歴やスキル、過去に取り組んだ事業の成功・失敗などの経験があれば、起業家が参入する市場を理解していて、適応する能力があるとみなされます。
具体的な例を用いながら、どのように問題を解決し成功したか、その再現性をアピールしましょう。
特に経験した内容だけではなく、今回の事業における再現性が重要となります。
例えば、成功体験から得たスキルや、失敗経験を通じて得た教訓を、事業計画にどう生かしていけるか、具体的に説明できるようにしましょう。
未経験でも公庫の創業融資の審査に通るためのポイント5選
未経験でも公庫の創業融資の審査に通るためのポイントを5つ紹介します。
【未経験でも公庫の創業融資の審査に通るためのポイント】
- 事業計画はかなり保守的に作る
- 代表者の経験をアピールできる計画とする
- 自己資金は1/3以上は持っておく
- 良くない信用情報は解消しておく
- 許認可は取得しておく
事業計画はかなり保守的に作る
公庫の審査では、具体的で現実的な事業計画の作成が重要です。
将来の予測値は、現実的かつリスクも配慮した事業計画が求められます。
楽観的な見込みや根拠のない数字は、審査を通過する際のネックとなるため注意が必要です。
リスクの予測と回避策も必ず含め、現実的な予想収益と開業後の運用計画を詳細に記述しましょう。
取扱商品やサービスの特徴はもちろん、市場規模や競合状況に基づく具体的な販売目標や、新規顧客獲得のための販売・マーケティング戦略などを明記するのが有効です。
代表者の経験をアピールできる計画とする
起業家自身の経験や専門知識をアピールできる事業計画を作成しましょう。
起業家が過去に成功した事例や関連業界での実績、専門的なスキルや知識を明記してください。
また、事業経験だけでなく、それを活かす戦略も明確に示すことが重要です。
例えば、「以前の営業経験から得たネットワークを活用して、初期顧客の獲得を加速させる」といった戦略を入れるとよいでしょう。
起業家の信頼性や事業の成長性を、審査担当者にアピールできます。
自己資金は1/3以上は持っておく
公庫の創業融資を申請する際には、起業家がリスクを負う覚悟を示すためにも、創業資金の1/3以上は自己資金として用意しておくのが望ましいです。
自己資金が十分にあれば、創業者が事業に投じる覚悟とリスクの理解をしている証明にもなります。
万が一、事業がうまくいかなかった場合でも、返済を続けながら事業を存続できる財務体力を持っているとアピールできるので、審査担当者に安心感を与えられるのです。
自己資金の比率が高ければ高いほど、融資を受けられる確率は高まります。
良くない信用情報は解消しておく
審査では、起業家や事業の信用情報に関する調査も行われます。
信用情報は、金融機関が貸付リスクを評価するための重要な情報源です。
例えば、過去の借入・滞納・返済履歴や債務整理の有無、不正行為の記録などが審査に影響する可能性があります。
ネガティブな情報があると、申請者が今後も返済能力を欠く可能性があると判断され、融資の審査が難しくなる場合もあります。
できるかぎりプライベートの借入や返済遅延があれば、すぐに解消して信用力を高めるようにしましょう。
事業運営に必要な許認可は取得しておく
公庫の創業融資を受けるためには、事業を適正に運営できる体制が整っていることが不可欠です。
例えば、飲食店を開くには食品衛生法に基づく許可、医療関連の事業を行う場合は医療法に基づく許可などが必要となります。
事業を行う上で必要な許認可やライセンスをすでに取得していることは、事業の信頼性と合法性を示すために重要です。
許認可の有無や、申請段階の場合は進捗状況を明確に示し、事業開始後の運営において法的な問題が発生しないと審査担当者にアピールしましょう。
公庫の創業融資の審査期間と流れ
創業融資の審査は、事業のビジネスモデルや事業計画、申請者の資産や信用情報など、多くの要素を考慮して評価されます。
そのため申請から審査結果が出るまでの期間は、1ヵ月~2ヵ月程度です。
ここでは、一般的な審査の流れを説明します。
まずは詳細な創業計画書を作成しましょう。
創業計画書には、事業の概要や市場分析、売上高の予測など、創業融資を求める理由と妥当な使いみちを具体的に記載します。
創業計画書が完成したら、借入申込書を公庫に提出します。
公庫の融資に必要な書類については、下記の記事を参考にしてください。
公庫は提出された申請書類を詳細に審査します。
具体的には、事業計画の実現性や返済能力、創業者の信用情報などを慎重にチェックします。
書類審査が通れば、次は面接が行われます。
面接では、創業計画書の詳細や起業家の経営能力などについて深く掘り下げられます。
書類審査や面接などの結果に基づき、総合的に判断されて融資の可否が決定されます。
申請から審査まで1ヵ月程度かかる
創業融資の審査は、一般的に申請から審査結果が出るまで1ヵ月程度かかります。
創業計画書の作成や申請書類の提出、面接・調査など、審査の各プロセスには時間がかかるため、余裕を持って手続きを進めましょう。
また、許認可を取得する必要がある場合は、取得までの期間も考慮して準備をすすめましょう。
最長2ヵ月かかるケースもある
融資の内容や申請者の状況によっては、申請から結果が出るまでに最長2ヵ月以上かかるケースもあります。
特に事業計画が複雑な場合は、事業内容を理解するために審査の時間が長くなりがちです。
また、希望する融資額が大きい場合も、公庫側のリスクが高くなるため、より厳密な審査が行われて期間が長引きやすいです。
事業計画の作成から許認事業計画の作成から許認可の取得まで、余裕を持ったスケジュールで申請に臨みましょう。
少しでも審査期間を早めたければ、下記の記事を参考にしてみてください。
公庫の創業融資に関するよくある質問
創業融資に関するよくある質問を3つ紹介します。
- 創業融資は一発勝負?落ちても再申込みできる?
- 自己資金は借りてもいいの?
- 創業融資の金利は?無担保・無利子で借りられる?
創業融資は一発勝負?落ちても再申込みできる?
創業融資の申請は一度しか行えないわけではありません。
一度審査に落ちた場合でも、必要な改善や修正を行った後に再申請は可能です。
ただし、一度審査に落ちると難易度は格段に上がってしまいます。
再申請する場合は、前回審査に落ちた理由や問題を解決する必要がありますが、具体的な内容は明確に伝えてくれません。
可能なかぎり十分な準備をして、最初の申込みで成功させることが理想です。
不安であれば、創業支援機関や専門家から事前にアドバイスやフィードバックをもらえば、初回の申請での成功率を高められます。
再申込みする場合は、最低でも6ヵ月は期間を空けて、審査に落ちた要因を改善してから臨みましょう。
自己資金は借りてもいいの?
創業融資の審査では、家族や友人から借りた資金は自己資金として評価されません。
それらの資金は自己資金ではなく、借入金として判断されるためです。
借り入れた資金は、自己資金として評価されないばかりか、借入金としてカウントされるため、審査上はその返済負担が問題となるケースもあります。
自己資金は、自身の収入からの蓄財である必要があり、贈与を受けたものなども対象外です。
創業融資の金利は?無担保・無利子で借りられる?
創業融資の金利は、融資制度の種類や申請者の信用状態などによって異なります。
公庫の「新規開業資金」の場合、担保・保証人は要相談となり、申請者の財務状況や事業計画などで必要か不要か判断されます。
無利子で借りられる創業融資制度はありませんが、一定の要件を満たせば特別利率といった低い金利を適用できるケースもあります。
特別利率の利用方法については、以下の記事を参考にしてみてください。
未経験でも公庫の創業融資の審査に確実に通りたいなら
本記事では、事業未経験でも公庫の創業融資を受けるために把握しておきたい審査基準や審査ポイントを解説しました。
創業融資の審査に確実に通るには、事前の準備と適切な対策が欠かせませんが、その申請手続きは簡単ではありません。
創業計画書の作成や審査面談など、経験のない方にとっては高いハードルが待ち構えています。
また、一度審査に落ちてしまうと、2回目以降はより審査基準が厳しくなりやすいです。
審査に通るか不安であれば、日本創業融資センターに一度相談してみてはいかがでしょうか。
当センターに在籍する公認会計士・税理士・CFO経験者などの専門家が、創業融資を受ける際に必要な書類の準備や面談対策など一気通貫でサポートします。
さらに、完全成功報酬型のため融資を受けられるまで費用は一切かかりません。
創業融資の審査に少しでも確実に通りたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。