会社設立時の資本金に借入金は使える?資本金を決める際の注意点を解説

会社設立時の資本金に借入金は使える?資本金を決める際の注意点を解説

監修者:渡部 豪(公認会計士)

KPMGあずさ監査法人で勤めたのち、ベンチャー企業のCFO(最高財務責任者)へ就任。
創業期の会社のデットファイナンス(融資)を複数支援した実績を持つ。
【主な支援実績】
融資額:最大5億円(コンサル会社)
創業融資額:最大6500万円(EC会社)

会社を設立する際に決めなければいけない資本金について、「どうやって決定すればいいの?」「資本金に借入金を使用できる?」など、疑問点もあるでしょう。

本記事では、資本金を決める際の注意すべきポイントについて解説します。

現在、起業準備中の人や今後自分で会社を設立しようと予定している方は、ぜひ参考にしてください。

目次

借入金は資本金に使えるの?

結論として、借入金は資本金として利用できません。

借入金は、会社が金融機関や個人から借り入れる債務であり、将来的に返済する必要があります。

そのような返済義務のあるお金を、資本金として計上することはできません。

資本金は、出資者が自己の資産を会社に提供することで形成される純資産です。

返済義務のあるお金は、借入金として計上することになります。

資本金の額が大きければ、会社の信用につながりますが、一方で資本金が大きいことによるデメリットも存在します。

資本金をいくらにするか決める際のポイントや注意点について解説していきます。

資本金とは?

資本金とは、会社を運営するにあたって元手となる資金です。

資本金は、出資者が会社に提供する資金であり、会社の財力や経済的な基盤を示すうえでも重要なものです。

株式会社では、会社設立時に拠出した経営者の自己資金や、増資時に募った出資者からの資金が資本金となります。

ここでは、資本金の特徴について3つご紹介します。

【資本金の特徴】
・会社の財力を表す基準となる
・社会に対し信用を示す根拠になる
・銀行融資の審査に影響を与える

会社の財力を表す基準となる

会社の財力は、保有資産の大小によって示されます。

その保有資産の元手になるものが、資本金です。

財力の高さは、会社の経営状態や成長ポテンシャルを評価する基準となります。

資本金の額が大きいほど、会社の財力は高いとされます。

十分な資本金を持つことで、会社の運営資金や設備投資などへの機動的な投資判断が可能となります。つまり、資本金が大きいということは、将来のサービス成長や事業拡大に対するポテンシャルがあるという証明にもなるということです。

社会に対し信用を示す根拠になる

資本金の額は、会社の信用を社会に示す根拠にもなります。

会社の信用力とは、いかに潰れない安全性の高い会社であるか、ということを意味します。

会社の安全性は、資産の状況、とくに自己資本の大小によって示されます。資本金は、その自己資本を構成する重要なものです。

一般的に、自己資本の大きい会社ほど倒産しにくく、逆に他人資本(借入)が大きく、自己資本比率が下がると、いざというときの倒産リスクが高まります。

そのため、資本金が十分に確保されている会社は、自己資本が大きく倒産リスクが少ないとされ、債権者や取引先からの信頼を得やすくなります。

また、銀行からの融資も、資本金が少ない会社に比べて得やすい傾向にあるでしょう。

経営者や出資者が責任を持って適切な資本金を設定することは、社会からの信用度を高めるためにも重要です。

銀行融資の審査に影響を与える

資本金が大きいことは、会社が銀行から借入を行う際にもプラスの影響を与えます。

例えば、事業開始後に資金繰りに苦労して、経営状況が悪化するケースも出てくる可能性があります。一時的な運転資金や設備資金が必要になった時に、融資を申請したいと考えることもあるでしょう。

事業資金の融資を申し込みする際に、金融機関は必ず財務の安全性や内容を詳細にチェックします

その安全性を示すのが自己資本の大小であり、資本金は自己資本を構成する重要なものです。

資本金が十分にある場合は、自己資本が厚く、借入金の返済能力や安定性が高いと見なされるので、資本金が少ない会社よりも資金提供に対するリスクが低いと融資審査で判断されます。

さらに、返済期間や金利など、より有利な貸し付け条件を得られたり、融資額自体を引き上げられる可能性もあります。

資本金は、融資によって事業展開の機会を広げるためにも重要な役割を果たします。

資本金を増やす方法とメリット

資本金を増やすには、いくつかの方法があります。

ここでは、3つの具体的な方法についてメリットもあわせてご説明します。

資本金を増やす方法

・出資者からの出資(株式の発行)
・利益を資本金に振り替える(資本組み入れ)
・債務の株式化(DES)を実行する

出資者からの出資(株式の発行)

資本金を増やすための最も代表的な方法は、出資者からの出資を受け入れ新株を発行することです。

新株発行とは、会社が新たな株式を発行し出資者から資金を調達することをいいます。

出資者からの資金は、会社の経営資金や事業拡大、新たなプロジェクトへの投資など使い道は自由です。

株式を発行し、出資者から資金を調達するメリットは、返済義務のない資金を得ることが可能な点です。
出資者から資金を調達したお金は、借入金とは異なり、債務としての返済義務がありません。

その対価として出資者は、会社が利益を得た際に配当を受け取る権利を持ちます。
また株式上場などをした際には、大きなキャピタルゲイン(売却益)を得ることも可能です。

そのため、将来的な利益が期待できる場合は、会社は株主から持続的な資金供給を受けやすくなるでしょう。

また、出資者のネットワークを活用する機会も増えます。専門家やアドバイザーなどの人脈や情報を積極的に活かすことにより、事業の発展も期待できます。

利益を資本金に振り替える(資本組み入れ)

資本金を増やすもう一つの方法として、これまでの利益(利益剰余金)を資本金に組み入れるという方法があります。

資本金を出資で増やす方法をとる場合、経営者や出資者の元手(現金)が必要です。

しかし、そういった元手がない場合は、会社の利益を資本金に組み入れることもできます。

メリットは、元手となる資金が不要な点と、現在の株主構成(持ち株比率)を変えずに資本金が増やせる点です。

持ち株比率は、自身の会社への影響力を示すことから、出資者にとっては重要な関心ごとです。

出資により資本金を増やす場合、新たな株式を発行することで株主構成(持ち株比率)が変わる可能性があるため、出資者(株主)の同意が必要となります。

しかし、利益剰余金を資本金に組み入れる方法は、各出資者の持ち株比率を変動させることなく行え、また出資者とのお金のやりとりも不要なため、柔軟性があります。

債務の株式化(DES)を利用する

債務の株式化(DES)を利用することでも、資本金を増やすことができます。

DESとはデッドエクイティスワップ(Debt Equity Swap)の略称です。

デット(負債)とエクイティ(資本)をスワップ(交換)するという取引で、自社の債務を資本(株式)と交換する方法です。

返済義務のある負債が消滅すると同時に、債権者は株主となります。
DESでは、債務と同じ額が資本金に振り替わります。

借入金を資本金に変換することにより、返済や利息の支払いが無くなることから、キャッシュフロ―を正常化する事が可能です。

さらに、借入金が減るだけでなく、資本金が増えることで財務の安全性評価が劇的に改善するメリットもあります。

このDESは、劇的な財務改善につながりますが、デメリットもあります。
少なくない株式を放出することにより、将来の株主としての利益の一部を犠牲にすることになるため、慎重な検討と確認が必要です。

資本金を決める際の注意点

資本金を決めるにあたって、事前に注意すべきポイントを把握しておきましょう。

【資本金を決める際の注意点】
・株主と出資比率は変更することが難しい
・消費税の免税措置が受けられなくなる
・法人住民税の負担が増える
・接待交際費が損金計上できなくなる

株主と出資比率は変更することが難しい

第三者からの出資を受ける場合、出資金額に応じて株式を割り当てることとなります。

この株式の割り当ては、一度実行すると元に戻すことはできません。

つまり、割り当てた株式をやっぱり返してくれ、と主張することはできないのです。

基本的に株主総会での重要な事案や意思決定においては、株主の議決権が影響力を持ちます。

そのため、株式の割り当てにより議決権を分散させる際は、株主間のバランスを考慮する必要があります。

出資を受け入れる場合、出資金額が多いほど株式の割り当ても多くなります。

自身の議決権割合を確保するためには、最適な出資金額を決めましょう。

議決権割合と株主の権限
議決権割合株主の権限
1株以上総会議決権
利益配当請求権
株主代表訴訟提起権
株式買取請求権
1%以上総会提案権
3%以上総会招集権
帳簿謄写閲覧権
清算人解任権
10%以上解散請求権
株主総会の特別決議阻止権(否決可能)
1/2超株主総会普通決議の実行権
取締役の選任権
即時解任権
2/3超株主総会の特別決議可決可能
大和総研:会社法下の保有割合と株主の権利等

経営の主導権を握るためには、2/3超の議決権を保有しておくことが賢明です。

最低でも、1/2超の議決権を保有することをおすすめします。

議決権比率が1/2を下回ってしまうと、代表取締役など役員の解任リスクを背負いながら経営を行う必要があります。

出資を受け入れることで資本金を増やす際には、議決権の確保と経営権の維持を重視しながら出資比率を検討しましょう。

資本金は自己資金のみでまかない、不足分は融資で調達することにより、株主としての議決権を維持する方法もあります。

自身の議決権割合を確保するためにも、第三者からの出資は慎重に検討し、経営の自主性と安定性を確保することが重要です。

消費税の免税措置が受けられなくなる

設立直後の税負担を軽減するために、消費税の納付が免除になる措置があります。

具体的には「新設法人の納税義務の免除の特例」といい、消費税の納付が最大2年間免税になる制度で、資本金1000万円未満の会社に適用されます。

資本金1,000万円未満の場合、設立から1期目と2期目の事業年度が対象です。

具体的にどのくらいの効果があるのか確認するために、シミュレーションをして計算してみます。

例えば、設立した企業の売上高が800万円、経費が500万円かかったとしましょう。売上高に対する消費税は80万円である一方、経費に対する消費税は50万円となります。納付する消費税の合計は、売上高に対する消費税から経費に対する消費税を差し引いた額になります。

【消費税額の計算】
①売上税額
= 売上高 800万円 × 消費税率10%
②仕入税額
= 経費 500万円 × 消費税率10%
③納付消費税
= ①売上税額80万円▲②仕入税額50万円
= 30万円

この場合、「新設法人の納税義務の免除の特例」の適用となれば、30万円の消費税を納付する必要はありません。

年商数千万円の企業では、数百万円単位の消費税が発生します。

資本金を1000万円以上にする際は、消費税の納税負担についても考慮し決定しましょう。

法人住民税の負担が増える

資本金は、法人税にも影響があります。

会社の利益に関わらず支払い義務がある税金として、法人住民税(均等割)があります。

資本金が1,000万円以下の場合、住民税の均等割は、従業員数が50人以下で7万円ですが、資本金1000万円超の場合は18万円かかります。

法人住民税(均等割)
資本金額法人住民税(均等割)
1000万円以下7万円
1000万円超18万円
※従業員50人以下の場合
東京都主税局:均等割り額の計算に関する明細書

接待交際費が損金計上できなくなる

資本金の額は、接待交際費が経費として認められる上限額にも影響を与えます。

接待交際費は、顧客や取引先とのビジネスを円滑にすることを目的とした費用です。

ただ、経費として計上できる金額には上限があり、年間800万円までとされています。

しかし、これは資本金1億円以下の中小企業に限った話で、資本金が1億円を超える場合、接待交際費は経費として損金算入することができません。

接待交際費の損金算入限度額
資本金額損金算入限度額
1億円以下年間800万円
1億円超0円(損金算入不可)
国税庁:交際費等の範囲と損金不算入額の計算

株式会社の資本金は最低1円から設定可能

会社設立時の資本金は、無理をしない範囲で設定することをおすすめします。

借入金を資本金に入れることは、見せ金になってしまい基礎知識がないと判断されてしまう可能性もあるでしょう。

会社設立後にも、融資制度の利用などさまざまな資金調達方法があります。

自己資金が十分に用意できない場合は、1円から資本金の設定が可能です。

資本政策に関するご相談は、日本創業融資センターへ

資本金額を決定する際は、持ち株比率や節税面、会社の与信面などさまざまな要素を考慮する必要があります。
資本金の大小にはそれぞれメリットとデメリットが存在します。

資本金の決定に関して不安がある場合は、日本創業融資センターにぜひご相談ください。

また、資金調達の方法も自己資金だけでなく、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの出資、日本政策金融公庫や民間金融機関からの融資など、様々な選択肢があります。

資本金が大きいことが必ずしも優れた結果をもたらすわけではなく、借入によるレバレッジを活かすことで、資本効率を最大化する方法も存在します。

日本創業融資センターは、経済産業省から認定を受けた支援機関であり、これまで100社以上の融資支援実績があります。

資本政策・資金調達に関する専門的な知識と豊富な経験を持つ、公認会計士やCFO経験者などの専門家が在籍しており、適切なアドバイスを提供しています。

また、事業計画書の作成など書類サポートも含め、起業家の皆様が安心して資金調達の手続きに取り組めるよう、サポートいたします。

無料でご相談を承っていますので、お気軽にお問い合わせください。

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